なくなる

 

おじいちゃんが亡くなった。

 

そう聞いて悲しいとかはよくわからなかった。

 

おじいちゃんの記憶は、家に遊びに行ったとき入り口入ってすぐ左手の部屋にいつも寝転がってた。座ってたかもしれない。椅子があったかも。どうだったかな。会話は何一つ覚えてない。

そもそも家族然り親戚然り、好きだとか嫌いだとかいう感情をあまり持ち合わせていない。

友達には重いのにな。

 

亡くなった翌日に家に行った。目を瞑っていた。暫く前から病気だったから、数ヶ月前久しぶりに会いに行った時も少し顔を合わせただけだった。会話は出来ないけれど、ボケてるわけじゃないから、笑えないけれど、目をパチパチしてくれた。喜んでくれてるのがわかった。私のこと覚えててくれたんだ。私は自分のことを人が覚えてくれてる自信がない。それは久しぶりに会う親戚にもそうだし、散々迷惑をかけた学生時代の教師に対してもそうだ。何故だろう。本当に忘れられている気がする。私はずっと覚えてるのに。

帰り際、お小遣いをくれた。決してお金持ちではないし、子供の頃遊びに行っても貰わないか本当に少額だったのになかなかの金額をくれた。なんだかすごい悲しかった。喜んでくれたんだな。悲しかった。

 

数ヶ月後テレビ電話をした。画面越しに私のことを見て喜んでくれてた。もう表情筋が上手く動かせないみたいだけど、また目をパチパチさせていた気がする。孫って可愛いのかな。特に思い出とかないのにな。出掛けたこともないし、そんなに話した覚えもないのにな。

 

次会った時は、もう冷たく硬くなっていた。綺麗な顔をしていた。鼻が高くて羨ましいと思った。

 

御葬式は、涙が止まらなかった。それは悲しかったからなのかわからない。雰囲気かな。御葬式は嫌いだな。人の死でお金を貰うお坊さんはどういう気持ちなんだろう。年間何人もの遺影と向き合って、どういう気持ちなんだろう。

御葬式中そんなことを考えていたら、お坊さんのこと睨んでた。気付かれてたかな。

 

棺の中は沢山のお花で埋めた。綺麗なお花。青が多かったから、青が好きなの?って聞いたらそういうわけではないみたい。好きな色も知らない。でも、母親のも父親のも姉のも妹のも好きな色なんて知らないや。そんなもの?

 

火葬。数日前まで生きてたのに。食事して排泄して寝て起きて楽しいこともしてたかな。動画見るのが好きって聞いたなそういえば。

なのに、いま、目の前で、骨になってる。骨だけになってる。綺麗な顔も細い腕も無くなって、骨だけになってる。なんで?なんで死ぬの?死ぬって何?全部なくなるの?生きてたよね?そこにいたじゃん。なんで?

 

骨をいれるから、大きいのは砕きます。

 

砕く?骨、おじいちゃんの骨。わたしのお父さんのお父さんの骨。

 

しっかりされてますね。

 

ポキポキ

 

しっかり契約してるところで骨を燃やします。

 

数日前までいたのに。暖かかったよね。柔らかくて細いけど柔らかくて。

 

遺影の写真はすごくお父さんに似ていて、それがすごく悲しかった。お父さんはひとつも泣いてなかった。悲しくても涙って出ないのかな。私はすぐ涙が出てしまうから。

 

悲しいってよくわからない。悲しいから泣いてるのかな。わからないな。

 

おじいちゃん、またね。